一
夜行で上野を立って、あくる朝一ノ関に着いた時には、町は七夕の色紙の笹で半ば埋められるようになていた。 朝日はもう高くなっていたけれども、夏の晴れた朝によく見る深い霧で、笹の葉も色紙もしっとり濡れて、 荷車も、車も、また町の人達も、夢の世界にでも動いているように見えた。朝飯を食わせるようなところはないかと、私達は門並に覗いて見たけれども、 そうした家は何処にも見当つかなかった。
「仕方がない、孤禅寺へ行ったら、何とかなるだろう。」
こう言って、私達は町を通り抜けてしまった。一夜寝られずに
※輾転反側・・・なんども寝返りを打つこと ※本文の漢字カナについて