好いにしろ、わるいにしろ、私は自然の拵 へたこの芸術品を見なければならない。その絵巻の
ひろげられて来るのを仔細に点検しなければならない。私はいくらか真面目な気分ななって
さっき失望した心持とはまるで違った真剣な気分になって、竿につれて、静かに船の滑らかに水面に動い
て行くのを待った。
「これから始まるんだね?」
「え、そうです。」
潭 ではあるけれども、決して深いすぐれた渓潭 ではなかった。水もそう大して綺麗と言うことは出来
なかった。それもその筈だ!と私は思った。こうした周囲の平凡な山岳の中に、深山に見るような
幽奥深邃 な渓潭を求めるのは、求める方が間違っている。それに谷そのものも、此処から上流は深い山の
中というのなら格別だが、それは決してそうではなく、上流も矢張平々凡々の渓流であるのである。私
は黙って、船の移って行くのを待った。
一度曲った渓は、忽 ち前に驚くべきシーンを展て来た。
「はゝア!」
こう私は思った。私の山水癖は忽ち深い衝撃を受けた。
何故なら、思いもかけない奇岩がそこにあらわれて来たからである。また思いもかけない幽深な気分
※潭・・・水を深くたたえた所 ※深邃・・・土地の趣などの奥深いこと ※本文の漢字カナについて
スポンサードリンク「これから始まるんだね?」
「え、そうです。」
一度曲った渓は、
「はゝア!」
こう私は思った。私の山水癖は忽ち深い衝撃を受けた。
何故なら、思いもかけない奇岩がそこにあらわれて来たからである。また思いもかけない幽深な気分
※潭・・・水を深くたたえた所 ※深邃・・・土地の趣などの奥深いこと ※本文の漢字カナについて