猊鼻渓と明治の文豪田山花袋の紀行文(その14)

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猊鼻渓
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 「何が釣れるかね?」
 「鰻が釣れます・・この川の鰻は、骨が柔らかいのが名物になっています。」
 「沢山(たくさん)釣れるかね。」
 「いるにはいるだァが・・」
壯夫岩のあるあたりは、殆ど渓の中心を成していて、此処等まで入って来ると、一の関から長い間を暑い 思いをして入って来た山路や、古風な田舎の宿駅や、四面をめぐった山岳や、そうしたものからは全く 離れて来て了ったような気がした。静かな静かな心持がした。
村の童達は、頻りに面白そうに水泳をしていた。
 「こうした遊び場所を持っているここいらの子供は仕合せだな。」
  こうした言葉が誰に言うともなくひとり手に私の口から出て来た。
  一番最後に、昔は獅子ケ鼻と呼ばれ、今は猊鼻渓と呼ばれる猊の鼻に似た岩石の絶壁にくっついている 渓谷があらわれて来た。
  私は長い間其処に立ち尽した。
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